畳の上で死ぬ準備
私は「スーパーヘルス」という本も書いているし、栄養学に基いた料理書も何冊か出している。それで生計を立てているのだから、食事に対してはおそらく人並み以上の注意を払っている。どういう食事が健全なものであって、いかにすればそれを毎日とることができるか、といった事柄を追求している立場にすれば食事に気を配るのは当たり前だが、それで長生きしようとは思っていない。命を粗末にしてはならないと思っているだけだ。少なくとも食事が原因で病気になったり、寿命を縮めたりすることはないように努めているのである。
その心掛けなしには、なかなか畳の上では死ねない時代である。それにまた、食事というのは毎日の積み重ねで、長くつづいてはじめて効果があらわれるものであるから、畳の上で死ぬ準備は相当早くから始めておく必要がある。
文/『地方色』 文藝春秋 より
父は、89年に発表したエッセイ、「今日は死ぬのにとてもよい日だ」の中で自分の死生観の一端を披露しています。この作品は、エッセイ集の『地方色』に所収されています。